事業承継とは、現経営者が他の者に事業を引き継がせて、経営者を交代することをいいます。

事業承継の方法には、(1)親族内承継、(2)親族外承継、(3)M&A(合併、企業買収)があります。

 

(1)親族内承継

オーナー経営者が、子供等、自らの親族に会社を承継させる方法です。

親族内承継のメリット・デメリット

(メリット)

  • ・会社の内外関係者からの同意を得られやすい
  • ・後継者を早期に決定すれば、承継準備がしやすい
  • ・オーナー財産の承継が相続で移転できるため、所有と経営の分離を避けることができる
  • ・個人保証や担保の引き継ぎの準備がしやすい

(デメリット)

  • ・親族の中に、経営者としての資質と意欲を備えた者がいるとは限らない
  • ・相続人が多数いる場合に、経営権の集中が難しい
  • ・相続人が多数いる場合、経営方針をめぐる対立のおそれ
 

親族内承継には早めの対策を

承継する事業の種類、規模、資産状況、従業員や経営陣の数、今後の展開方向、そして何より経営者の個人的な性格などもあって、その準備期間が異なってきます。親族間で事業承継をする場合、どのタイミングですべきか、難しいところです。

現経営者がカリスマ的な存在で、生前には事業を譲る気持ちがない中で急死してしまった場合は、事業に全く関与していない遺族が会社の事業用財産を相続することになります。これでは、会社所有者と経営陣が分離してしまうことになり、会社事業をどう承継したらいいのかわからなくなります。できればこのような事態は避けたいものです。

理想的な事業承継は、あらかじめ親族を数十年にわたって事業に携わらせて、かつ、其の者に経営能力があり、現経営者も引き継がせる意思があってその準備を着々と進めている、そして、その様子を取引先や従業員も周知している、このような状況下でバトンタッチできることです。親族内承継対策は早期から準備することをおすすめします。

 

親族内承継の方法

親族内承継の具体的な方法としては、①相続による承継、②生前贈与による承継、③売買による承継があります。

 
①相続による承継
経営者の生前には事業承継は行わず、経営者の死後、相続が発生したときに後継者に承継させるという方法です。 なんら手立てなく相続が生じた場合には、株式や会社の事業用財産は法定相続に従って分散されることになってしまいます。このような不都合を避けるため、必ず遺言書を作成して後継者に事業に関する資産等を相続させる旨、明記する必要があります。遺言書の具体的な内容や形式等は専門家に相談することをおすすめします。
 
②生前贈与による承継
オーナー経営者が、生存中、贈与によって自社株式等の資産を後継者に承継させる方法です。
 

〈節税対策〉

贈与税も相続税も、課税される財産が多ければ多いほど、税率が高くなる超過累進課税が導入されています。その上げ幅は贈与税の方が大きくなります。そのため、自社株式やその他多くの財産を承継することになる事業承継では、生前贈与による方法は、相続による場合と比べて、税金が高額になる傾向があります。 そこで、贈与税の非課税枠である年間110万円の範囲で数年かけて贈与していく「暦年課税贈与」や、60歳以上の父母または祖父母から20歳以上の子または孫に対して累計で2500万円までの財産を非課税で贈与できる「相続時精算課税制度」を利用することが考えられます。
 

〈遺留分対策〉

兄弟姉妹を除く相続人には、最低限相続財産を受け取ることができる権利である遺留分があり、後継者の遺留分侵害額請求の対策を考えておくことが必要です。 平成20年5月9日に成立した「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」の中に、後継者が現経営者から贈与により取得した自社株の全部または一部を、遺留分算定基礎財産の価格に算入しないとの合意をすることが可能となりましたので、これを利用するのもひとつでしょう。
 
③売買による承継
経営者から後継者が自社株式等を買い取る事業譲渡、という形式で行う承継方法です。 通常の株式売買であるため、相続税や贈与税は課税されず、また、遺留分侵害に配慮する必要もありません。 もっとも、後継者は自社株式等を取得するための資金が必要となります。
 

親族各位の意向に沿った種類株式

以上は、現経営者の立場に立った承継の方法を述べました。

他方、承継する親族側の立場も考える必要があります。

会社の経営には興味はないけれども、配当には興味がある親族が株式を所持している場合、または、会社の株式自体持ちたくない親族がいる場合には、以下のような種類株式を発行する方法もあります。

前者の場合の種類株式として、

 
  • ①決議事項に制限を設ける「議決権制限株式」
  • ②特定の事項に対し株主に拒否権を持たせる株主の「拒否権付株式」
  • ③特定の株主から役員を選ぶことができる「役員選任権付株式」などがあります
 

後者の場合の種類株式として、

 
  • ④株式の取得を会社へ請求することができる「取得請求権付株式」
  • ⑤一定の条件を満たせば会社が株式を取得できる「取得条項付株式」
  • ⑥株主総会の決議で会社が株式をすべて取得できる「全部取得条項付株式」などがあります。
 

これらの種類株式は、次の親族外承継でも利用することができます。  

(2)親族外承継

親族の中から後継者を育てていく見込みがない場合は、親族外の役員、従業員の中から、あるいは取引先企業や金融機関などから選ぶことになります。

親族外承継のメリット・デメリット

(メリット)

  • ・社内を熟知した優秀な人材に承継できる
  • ・会社内外の関係者から理解を得やすい
  • ・長期従事者であれば、経営との一体性をもちやすい
  • ・社内・外から広く優秀な候補を求めることができる

(デメリット)

  • ・後継候補者に株式取得のための資金力がない
  • ・後継候補者として強い意思をもつ適任者がいない
  • ・個人保証の引き継ぎが難しい
  • ・承継後に個人と会社資産等、公私の明確な区分が必要
 

親族外承継の方法

親族外承継の方法としては、経営権のみ後継者に承継させて、自社株式等はオーナー一族に留保する方法、経営権も自社株式等も後継者に承継させる方法の2つがあります。

 
①経営権のみの承継
オーナー一族は、株主としての立場からのみでしか、会社に関わることができなくなり、所有と経営が完全に分離することになります。 そこで、中小企業においては、株主の意思から乖離しない経営の枠組み作りが必要となります。種類株式の活用が効果的です。
 
②経営権も自社株式等も承継
後継者は自社株式等も取得する必要がありますが、そのための資金を調達する工夫が課題です。その方法としてMBO(後継者が株式取得を目的とする別会社を設立するなどして、投資ファンドや銀行から資金的サポートを得る)という手法を取ることもあります。
 

(3)M&A(合併、企業買収)

M&Aのメリット・デメリット

(メリット)

  • ・広く内外に後継者を求めることができる
  • ・現経営者が企業の売却利益を得ることができる

(デメリット)

  • ・希望の条件を満たす買い手を見つけることが困難
  • ・社員の不安
  • ・仲介業者への報酬負担
 

M&Aの方法(概要)

親族内・外承継において親族、従業員等に後継者としてふさわしい者がいない場合は、外部から経営の専門家を入れて経営を任せて、会社所有者の意に沿わない場合は、解任、新役員選任ということを繰り返すことになります。しかし、会社経営をよく知らない親族にその経営能力の判断をまかせる難しいことです。

そこで、最終的には、会社そのものを売却する、M&A(Merge(合併)&Acquision(買収)による承継を利用することになります。

ただ、この場合、従業員の雇用維持及び処遇維持、会社の存続維持を確保してもらえる信頼できる承継会社を見つける必要があるのと同時に、承継しようとする会社にとっても売り手企業の企業内容を精査する必要があります。これらの手続きには、専門の仲介会社、金融機関、弁護士、税理士、中小企業診断士などの協力が必要となります。

中小企業のための法律相談お問い合わせ