不動産は、売買契約、賃貸借契約、請負契約、担保権設定の対象となり、取引額が高額であるがゆえに、取引の際には、弁護士、司法書士、土地家屋調査士、測量士、建築士、土地建物取引士、不動産会社などの専門家が関与して、失敗のないように慎重に取引がされるのが通常です。

しかし、どんなに慎重に取引をしても、建築基準法上、土地計画法上、税法上などの厳しい規制があり、しかも高額、さらには、事業運営や日常生活で継続的に使用していくものであるがゆえにこれらの取引において、トラブルが生じることが多くあります。

そこで、以下、売買契約、賃貸借契約において生じやすいトラブルを紹介していきます。

 

売買契約

【トラブル例】

売買契約においては、契約当事者に関するトラブルと目的物に関するトラブルが挙げられます。

 

〈契約当事者に関するトラブル〉

契約当事者自身に関するものとしては、そもそも売主本人が契約当事者と異なっていた、あるいは、売主に認知症の疑いがあり意思表示に問題がある、といった場合です。

これらのトラブルを事前に防止するために、代金と引換に所有権移転登記する決済時に司法書士が、責任をもって、写真付身分証明書などで売主の本人確認をし、さらに売主と直接面談して、所有権移転意思、認知症でないことの確認をします。

 

〈目的物に関するトラブル〉

建物であれば、①屋根からの水漏れ、②建物の傾き、③シロアリ、④残置予定物(エアコンが取り付けてあったのに外されている等)、などが挙げられます。土地であれば、①土壌汚染、②地中障害物、③土地の境界不明、などが挙げられます。

また、建物・不動産に共通するトラブルとして環境的瑕疵があります。たとえば、眺望や日照に関するもの、近隣に嫌忌施設(墓地、ゴミ処理場、高圧鉄塔、鉄道等)があるといったこともトラブルの原因になります。

これらについては、通常、不動産の専門家である宅地建物取引士を含めた不動産会社がしっかりと調査の上で事前に重要事項の説明がなされて取引をしていれば、問題がないのです。

 

しかし、この調査が不十分であったり、説明義務違反があると、これらのトラブルを避けることができません。

このような場合、契約内容に適合しない点を明らかにして、修補が可能であれば、瑕疵修補請求をしたり、修補が不可能な場合損害賠償請求します。

それでも、買主が納得いかない場合は、契約を解除し、損害賠償請求をしていきます。

また、不動産会社に対しては、説明義務違反などで責任追及していきます。

 

【新しい契約不適合責任】

2020年4月1日から、従来の瑕疵担保責任に代わって施行される売主の契約不適合責任は、従来の瑕疵担保責任が、不動産のような代替性のない特定物に関する契約を念頭に置いていたのに対し、特定・不特定物に関係なく当事者が合意した内容に沿った契約の実現を目的としており、そのため債権者(買主)の救済がより手厚くなりました。

 
(旧)瑕疵担保責任(新)契約不適合責任
対象隠れた瑕疵種類・品質または数量に関して契約の内容に適合しないもの
追完請求できない追完の履行が可能であればできる
代金減額請求できない追完がない場合にできる
損害賠償請求瑕疵の回復の範囲(信頼利益)でできる契約内容通りに実現すれば得たであろう利益(履行利益)までできる
解除契約の目的を達成できないときに限り、できるできる
但し、不履行が軽微である場合はできない
権利行使の方法瑕疵を知ってから1年以内に請求不適合を知ってから1年以内に通知
時効権利を行使できる時から10年権利を行使できることを知った時から5年
権利を行使できる時から10年
 

新法になって、一見買主側に有利になったと思われますが、あくまで契約の内容を実現するために課される責任です。契約締結時にどのような内容をどういった経緯で合意するに至ったかが、その後の双方の責任を決定する上で極めて重要となります。とくに不動産は金額が大きいため、予想外の責任を背負うおそれがあります。

不動産会社だけではなく、弁護士等の法律の専門家の力を借りて、各種トラブル、そこから生じる責任の拡大防止に努めることをおすすめします。

 

賃貸借契約

賃貸借契約においては、賃貸人、賃借人それぞれについて、以下のトラブルが生じます。  

【賃借人に起因するトラブル】

賃借人に起因するトラブルとしては、①賃料の未払い、②無断転貸、③契約終了後の原状回復義務違反などがあります。

 

①については、支払の督促をしますが、長期間の滞納が続くと信頼関係が破壊されたとして、無催告で契約解除することになります。

 

②については、契約書に解除事由としてあげているのがほとんどであり、契約解除することになります。

①②を含め賃貸借契約を解除しても、賃借人が建物を明け渡さない場合は、訴訟提起して、判決を得た後に、建物明渡しの強制執行手続をすることになります。このような手続まですることになると、費用が50万円以上、時間も半年以上かかることにもなりますので、そうなる前に、弁護士に依頼して訴訟提起前で早期解決を図ることが重要となります。

 

③については、原状回復の範囲や程度について争いが多く生じます。

平成23年公表の国土交通省のガイドラインによりますと、「原状回復」とは、賃借人が借りた当時の状態に戻すものではないということを明確にし、原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義付けています。

これと異なる賃借人負担の特約を設けるには、少なくとも、賃借人が修補費用を負担することになる「通常損耗」の範囲が賃貸契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書に明らかでない場合には、賃借人がその旨明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、の旨の特約が明確に合意されていることが必要です(最判平成17年12月16日)。

わかりやすく言うと、通常使用・経年劣化による建物の汚れや破損はオーナーの負担で修繕する、賃借人に負担をさせるには特約が必要だ、ということです。この「通常使用」「経年劣化」の判断や、特約の存在及びその有効性について争いが多く生じます。

なお、改正民法では賃借人が負担する原状回復義務について明記されました(621条)。賃借物を受け取った後に生じた損傷については、原則として賃借人が原状回復義務を負担しますが、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、原状回復義務を負わないものとされます(621条但書)

 

【賃貸人に起因するトラブル】

賃貸人に起因するトラブルとしては、①賃貸人の修繕義務違反、②不当な家賃の増額請求、③不当な立ち退き要求、④契約終了後の敷金返還義務違反などがあります。

 

①については、賃貸人は、賃借人に対して目的物を使用収益させる義務を負っています。そして、その対価として賃借人から賃料を収受している以上、目的物を使用収益させるに適した状態にする義務も負います(修繕義務)。この義務が誠実に履行されなければ、当然トラブルになります。

さらに、この修繕義務に関する規定は任意規定であるため、これと異なる特約を設けることができますが、この特約が契約条項に明記されていない、明記されていても内容が概括的すぎて漠然としている、あるいは、賃借人に一方的に負担を強いる内容である、といった場合にも争いが生じます。

 

②については、増額に納得がいかないといって家賃を支払わないとすると、長期の家賃滞納があるとして、契約を解除されてしまいます。そこで、このような場合、賃借人としては、法務局へこれまで支払っていた金額で家賃供託し、あとは裁判で争うことになります。

 

③借地借家法によると、賃貸人が立ち退きを請求するためには、正当理由が必要であり、これがない場合は、賃借人が納得する立退料でないと、賃貸人は、契約を解除できません。

 

④については、退去時に敷金が返還されない、あるいは、敷金から高額な原状回復費用を差し引かれ、さらには不足分を請求されるといったトラブルです。

敷金とは、いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人から賃貸人に交付する金銭のことです(622条の2 1項かっこ書き)。未払賃料額については通常、争いは生じませんが、原状回復費用については、その範囲や賃借人負担を内容とする特約の有効性をめぐってトラブルになります。

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